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その6「甲州種は、在来品種なので欧州系専用品種に比較して栽培が容易である。」

甲州種の起源については謎の部分がありますが、少なくとも500年以上は、日本で存在していると思われます。

UCデイヴィスのDNA鑑定結果から、約97%ヴィテス・ヴィニフェラ種(ワイン専用種と同じ種)と判明しています。

また、明治初期には、ウドンコ病、ベト病、フィロキセラなどの主要病害虫が侵入していなかったので、ほぼ無農薬でも存在することができました。

この辺の事実を認識していないと在来種だから栽培が容易であるかのように錯覚し、有機栽培などを志すことにもなりかねません。

在来種だから病害虫に強いという短絡的な発想をするようであれば、栽培の知識と技術レベルが窺い知れます。

甲州種が今注目を集めているのは、ほぼヴィニフェラ種であるからです。ヴィニフェラ種の一品種としての品種固有の特性は有していますが、

栽培技術レベルで判断するとやや難しい部類に入ります。

果樹剪定の中でもっとも複雑で習得しにくいと言われるX字型長梢剪定は、甲州種を安定的に栽培するために考案された樹型です。

しかし、X字型で甲州種を仕立てることが最も難易度が高いと言われています。

また、萌芽率、頂芽優勢、花芽形成についても他のヴィニフェラ種より安定しません。

唯一フィロキセラ耐性は、やや強いように思われます。ベト病、ウドンコ病には弱く、糖度20度近くになると晩腐病も多発します。

「甲州種は、ワイン専用種に比較して栽培がやや難しい。」

その7「巨峰栽培の名人は、ワイン用ブドウ栽培の名人でもある。」 

巨峰は、日本を代表する生食用ブドウ品種です。しかし、ヴィニフェラ種と(ラブラスカ種×ヴィニフェラ種)との交雑品種で、

ラブラスカ種の特性を比較的多く有している品種です。栽培技術の低い人たちは、難しい品種としていることが多いようですが、病気にも強く栽培は容易な品種だと思います。

また、染色体数が2n=76で4倍体品種と呼ばれています。ワイン用品種は、2n=38で2倍体品種です。

3倍体品種は4倍体品種と2倍体品種の交雑、交配により育成され、品種の数は少なくキングデラなど元々種がありません。

サルタナなどレーズン原料となる種なし品種は、3倍体ではなく、元々種子を形成しない特殊な2倍体品種です。

なお、よく混同されていますが交配(クロッシング)は、同じ種、交雑(ハイブリッド)は違う種による掛け合わせですね。

倍数体は、栽培方法もその特性を考慮し発展してきました。

私は、栽培を指導する上で3つのグループに分けます。

1.ヴィニフェラ種(交配種)品質高いが、栽培が難しい。

2.交雑種(ラブラスカ×ヴィニフェラ)ラブラスカの血が濃いほど栽培が容易

3.4倍体品種(交雑種)特に種なし栽培は全く違う作物として認識すること。

巨峰系品種の種あり栽培の場合は多少参考になることがあるものの純粋な2倍体品種のヴィニフェラ種と比較すると、別の果物であると私は考えています。

「巨峰栽培の名人がワイン用ブドウ栽培の名人であるとは限らないし、生食用ブドウ栽培の名人もまたしかり。」

その8「芽かきは、早くした方が良い。」

今回は、ちょっと専門的になりますが、基本を押さえていない人が多いので説明します。
栽培技術で何が問題かというとマニュアルで覚えている、何のためにどうしてそうするのか理解せずに形だけを覚えるわけです。

剪定方法がその典型です。本質的な意味が理解されてないと樹の状態を無視して一律8芽で切りそろえるなんてことにもなりかねません。

栽培について質問して、もう一度「どうして?」と尋ねると言葉に詰まるようでは一流とは言えないでしょう。

相手にどの程度の技量があるか確認するにはこの方法が一番手っ取り早いと思います。

理論的に破綻している人もいますのでメモを取って後で確認してください。

樹勢が適正かやや弱い場合、展葉3枚目以降になるべく早く芽かきをした方が良いでしょう。

どうして、3枚目以降なんですか?

萌芽状態を見極めるためです。

前年の貯蔵養分による成長がおよそ2枚目ぐらいで、それ以降は、根と新梢からの養分転流による生育に代わるからです。

早ければいいとは限りませんし、晩霜対策にもなります。

どうして、3枚目以降ではダメなんですか?

剪定が適切であれば、樹勢が適正かやや弱い場合には、健全な生育が予想されるので、養分転流を円滑に進めるためこの時期が最適になります。

芽かきは3枚目以降から始め樹勢によっては、誘引時まで数回に分けて実施します。

発芽率を確認し、剪定率を考慮し、芽かきで樹勢をコントロールします。

芽かきで萌芽を揃え新梢で合成するオーキシンを増やすことで根の成長を抑え健全な生育を維持することが重要です。

そもそも適正な樹勢かどうかの判断をするためには、貯蔵養分から栄養成長に転換してからの方が分かりやすいからです。

樹勢が強い場合はどうなるのですか?

発芽率が低くなる傾向にあり萌芽が揃わず初期のオーキシン生成が少ないので

根の成長を促進しさらに樹勢が強くなるので出来るだけ遅くし、オーキシンを増大させる必要があります。

初期のオーキシンが少ないとジベレリン、サイトカイニンなどの影響で強い樹勢は、より強く、強い新梢もより強くなります。

剪定率、萌芽率を見極めてから、芽かきの時期と程度で修正する。

樹勢をコントロールするために弱剪定にし、また萌芽率も高めてあるのに芽かきを早くすることで結果的に剪定率を高めてしまうことになります。

予想以上に樹勢が強くなるということは、強剪定した結果によることがほとんどです。

多少施肥量(主にに窒素成分)を増やしても弱剪定して適切な樹冠管理を行えば樹勢は強まりません。

 その9.「甲州種は短梢剪定すると、一新梢一房になる。」
花芽分化とか花芽形成とか、ワイン用ブドウ栽培では聞かれない言葉です。

品種にもよりますが、専用品種(ヴィティス・ヴィニフェラ種)では一新梢に1〜2房の房がつきます。

甲州種を短梢剪定で栽培すると房持ちが悪くなるということを指摘する人がいます。

一新梢1〜2房に満たないということでしょう。長梢剪定でも空枝(房がない)になることがありますが、短梢剪定栽培の方がその傾向がより強くなります。

実際のところ健全な生育をしている甲州種であれば、短梢剪定栽培でも、平均2房、時に3房になります。

花芽形成を意識しながら栽培しているブドウ農家はほとんどいません。

ヴィティス・ヴィニフェラ種の生食用品種のごく一部の品種だけが問題になるからです。

マスカット・オブ・アレキサンドリアや4倍体の巨峰系品種などは、花芽形成がとても良く全く問題になりません。

こうした品種は栽培が難しいとは私は言いません。

ロザリオ・ビアンコかな?と思った人は、まあ普通レベルです。

私は、短梢一文字剪定で栽培していますが、ちょっと気をつければ何ら問題ありません。親のロザキに比べれば大したことありませんね。

バラディーという品種が花芽形成が非常に悪い品種の代表です。その血を受け継いだマニュキア・フィンガーなどもその傾向が強いようです。

こうした品種は、長梢剪定で栽培した方が無難です。

ワイン専用種ではヴィオニエが房持ちが悪いと聞いておりますがまだ確認していません。

ほとんど全てのワイン専用品種は、私の知る限り花芽形成が良く通常の栽培では全く問題ありません。

花芽形成のメカニズムの説明は長くなりますので省略させていただきますが、他の果樹と違い前年の貯蔵養分だけでは決定されません。

全ての条件を整えると問題は解決します。

「ワイン専用品種は長梢剪定に比べ短梢剪定の方が、花芽形成(房持ち)は悪いのは間違いありませんがが特に問題にはなりません。」

問題になる人は、基本的な栽培技術に問題があります。

その10「巻きひげは取った方が良い。」
そんな事どっちでもいいでしょう。という声もどこからか聞こえてきそうですが、小さなことの積み重ねが植物生理に基づいて考えられているか否かは、

Team Kisvinとしては、大きな意味を持つわけです。ブドウの生理に逆らう無駄な仕事はしない方が良いとさえ思っています。

ブドウ栽培の現場では、間違った根拠、思い込みからから栽培指導していることが多いようです。

「どうして?」という視点から考えてみると答えが出てきます。

新梢の巻きひげを生育中に取り除くと、新梢はまっすぐ素直に伸びず、くるっと回転したりします。

巻きひげは猫のひげと同じとは言いませんが、センサーの役割をしていることに間違いありません。

また、花芽形成が十分に進まないと小さな房になったり、房になるべきところが巻きひげになってしまいます。

巻きひげは花芽の原型でもあり、シンクにもなるのでバランサーとして活用すべきです。

植物が最適な光環境を求めて葉を茂らすことはよく知られています。巻きひげで絡みつきながら枝(蔓)を固定し、

よりよい環境に向かって伸びて行きます。つまり最適な光環境を求める訳です。

「そんなの当たり前じゃん。」というあなた、それなら「どうして巻きひげをわざわざ取るのですか?」

巻きひげを取ってテープでとめる。これが効率的でしょうか?絡みついた巻きひげをそのまま利用した方が合理的です。

台風などの強風時にテープは外れても太い巻きひげは取れません。

針金などに絡みつかなくなった巻きひげは、結実期以降に自ら枯れてしまいます。

役割を終えると養分が流れ込まず、果実と巻きついた部位へ転流します。

この事実を目の当たりにした時、「ブドウはすごいな。」と感動を覚えしました。

「生育期間中に無闇に巻きひげを取らず活用すべきです。」

剪定の終わった畑の巻きひげとテープは、きれいに取り除きます。

巻きひげなどの枯れた部位は、晩腐病などの病原菌の住み家となるからです。

これから一年のスタートを切る上で真白な気持ちでいたいという思いもあります。ワイナリーのサニテーションと同じですね。