雑感のコーナー・時々コラム

農業を志す人へ

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05/04/23農業を志す人へ@
田園に帰ろうではないが、昨今の経済状況と
新規参入者をもとめる農水の政策の影響もあり
このところ、農業を志す人が増えてきた。
甲府市、山梨県青年農業者会議会長の在任当時から
新規参入者への対応を行政に対し請願してきた事もあり
個人的にも研修生を受け入れたり、メールでの問合せに応じたりと
プロの農家として積極的に取り組んでいる。

その中で感じた事を農業を志す人たちに捧げたい。

05/04/25農業を志す人へA
農業を志すと言っても、
農家になる事と田園生活をする事とは全く意味が違う。
資産が十分あり、不動産収入が定期的にある兼業農家と
専業農家とでは、経営に対する考え方が違って当然である。

自給自足的農業、年金頼りの兼業農家などは、
「農業を志す」という事ではないという前提で話を進めたい。
何故なら、そういう人たちは、農業収入がなくとも何とか食べていけるからである。

専業で自立した農業経営を志す新規就農者に対して
一言物申すと言うのがこのコラムの主旨である。

「日本の農業の行方」の中で触れているように
多様化した農業の在り方を否定しないし、
職業でなく「一つの生き方としての農業」を十分に認めている。
ここでは、専業、つまり、プロとして「農業を志す」人たちを対象とする。

05/04/26農業を志す人へB
農業は、個人事業者つまり自営業である。
ちょっと規模が大きくなれば、
農業生産法人で有限会社というのが一般的である。
ところが、何を勘違いしているのか、
農業を志す事は、自営業者になるという事であるが、
頭の中では、まるで、一致していない。
というか、そういう事すら頭の片隅にほとんどない。
職業として、農業を選択するという事は、経営者としての資質がなければならない。
ろくに経験もなく脱サラして、たとえばラーメン屋を開くのと
農業をする事は、基本的に同じであるが、
農業には、チェーン展開がないという事でもお分かりのように、
はるかに収益性が低いという現実を忘れてはならない。

05/04/27農業を志す人へC
頭の中では、理解していても現実となると
まさに「想定外」で、挫折する人たちが多い。

本人にとっては、「想定外」であっても、農家サイドから見ると
「想定内」であるというのが普通である。
これは、農家や農村の問題ではなく、
新規参入者の「甘さ」に起因していると思われる。

これまで、多くの研修生を抱えてきた篤農家の話によると、
「100人に、ひとりぐらいしか就農しない。」というのが、本当のところらしい。

当然の事ながら、新規参入者は、技術レベルが低く、
従って収益性も平均的農家より低いという。

人間関係に問題があったり、会社勤めに疲れた人には、
全く向いていない世界であるのだが、
そういう輩に限って、農業をしたくなるようだ。

農業への定着率の低さは、ここにあると断言できる。

会社で力を発揮できない人が、やれるほど甘くはない。
なぜなら、周りの農家や保守的な農村社会との関係を
重視しないと生活が成り立たないし、
労働時間も長く、体力がなければ、就農しても自滅するだけである。

05/05/01農業を志す人へD
農業は、魅力的な職業であるが、相当の覚悟がないと成功しないだろう。
根気のいる単純作業や肉体労働も多く、粘り強い精神を必要とする。
植物や土を愛する心がなければ、長続きしない。
農作業を体験せずに、就農を希望するのは、無謀である。
一年一作の果樹などは最低でも、一年を通して作業を経験する事が必要である。
これを研修期間と考えると、その間の収入は、ほぼゼロである。
研修生を受け入れている農家や農業生産法人の中には、
研修生を単なる単純作業用の人材としか捉えていない所もあるが、
それでも、農作業を経験したほうがいいに決まっている。
誰でも出来る簡単な作業でも初心者と熟練農業者とでは、
作業効率は、信じられない事に2倍から5倍の差が生じる。
しかも熟練者は、早く美しく確実に仕上げるのが普通である。

05/05/02農業を志す人へE
農業を志すという事は、単なる農夫になるのとは、訳が違う。
起業する分野が農業であると考えなければいけない。
国内農業が衰退している一番の原因は、儲からないからである。
収益性の低い産業に新規参入するという意味をよく考えないといけない。
従来と同じ方法でアプローチすれば、失敗する可能性が高くなるだろう。
これまで新規参入が少なく閉鎖的な業種だったため、
いわゆる「農業の不思議」が幾つも存在している。
成功した新規参入者は、この「農業の不思議」に対し、
敢然と挑戦し考えた事を即実行する行動力ある一握りの人たちだ。
これは、どの業種にも当てはまる事だとお気づきであろうが、
「不思議な」事に、農業とこうしたビジネスライクな話を
結びつける人が極めて少ない。
農業の厳しさは、漠然と知っていても、「お金儲け」のために
農業を志す訳ではないので、そのことには、余り触れたくないような人たちもいる。
それは、ここでいう「農業」ではなく、趣味的自給的農業であり、
社会性のない自己満足的農業である。

「農業で何とか食べていければいい。」とお考えなら、それは、無理だと思う。
高い技術と経験豊富で農業資産ある農家が
食べていけないから、兼業し、廃業し、衰退している現実がその答えである。

もっと高い目標を持たなくては、人並みの生活を維持する事すら難しい。

05/05/06農業を志す人へF
「農業で大金持ちになりたい。」と公言し、
参入する人にまだお目にかかった事がない。
事前の情報として、農業は、仕事が厳しく儲からない割の悪い職業だと
感じているからだろうか、それとも、ドロップアウト組で、何も考えていないのだろう。
夢甲斐塾及び青年塾の上甲塾長いわく、「志を高めるなら、農業ほど優れた職業はない。」
新規参入には、何よりもこの志がなければ無理だろう。
自分だけが食べていければいいのではなく、農業の持つ社会性を考え、
消費者に安定供給し、命の源を生産しているという気概を持ちたい。

より多くの消費者に支持される農産物を生産しなければ農業をする意味がない。
個人事業者でなく、法人経営者を目指さなくては、これから生き残れないだろう。
これは、新規参入者のみならず、既存の農家の将来の一つの方向性でもある。
不平不満を口にして、会社の利益をろくに上げられない給料取りでは、
農業経営は難しいだろう。ましてや、リストラ対象者ごときでは、到底無理だろう。
会社で必要とされていない人が就農するのが一番危険である。

逆に、いつか独立をするぞという強い思いを持ち、
周到な計画をし、資金調達も十分であれば、可能性は大きく広がる。

05/05/10農業を志す人へG
いまでは、百姓というのは、一種の差別語のように扱われているが、
元来、百の姓を名乗るほど、多くの職業できなければ、
農業が成り立たないというところから、来ているらしい。
実際、農学のみならず、簿記、経営などの知識も必要になる。
これから、参入するのであれば、パソコンを使いこなせないと
話にならない。

私の場合、会計ソフト、顧客管理、ホームページ作成、
気象などの情報をチェックするためにインターネットを活用している。

農協に頼らず、直売を目指す人も多いだろうが、
販売の適正や経験によって、成長力に差が出る。
販売に適性がなくとも、栽培技術が高く、「いいもの」を生産できれば、
販路も開かれるだろう。
幅広い知識を必要とする農業だからこそ、多くの可能性が残されている。

これまでの経験を生かして、農業に参入すれば、
新しいビジネスモデルも提案できるかもしれない。

05/05/11農業を志す人へH
農業に参入するという事は、起業することである。
当然資金計画を立てなければならない。
技術習得する期間の生活費、農業機械などの取得費、
新居の借り入れなどの居住費などかなりの金額になる。
節約するために中古機械にするとかの方法はある。
しかし、果樹農家の場合、運良く成園を借りられたとしても、
収穫期まで、無収入となる。
貸し出される農地は、ほとんどの場合、収益性が低く、改植しなければならないので、
苗木の購入費なども考慮しなければならない。

私の試算によると資金は、現在の収入の三年分は必要であろう。

05/05/23農業を志す人へI
農業において、一番大切な心構えとは何だろうか。
それは、「感謝する心」と「素直な心」だと私は、考える。
長時間労働でも、やらされていると感じれば、苦痛である。
素直な気持ちで植物に接していれば、やりたい事ばかりで、
「もう一日が過ぎてしまった。」というように、時間さえも忘れてしまう。
栽培管理に対しても、たとえば、言われた事を
先入観なく素直に管理すれば、植物は、しっかりと答えを出してくれる。
「ブドウは、その人の人格が滲み出るものである。」
素直な気持ちで接すれば、素直なブドウに仕上がる。

人が、一生懸命に栽培管理しなくても、
植物は、一生懸命に結果を出そうと努力してくれる。
この生きる力に感謝しながら、汗をかくのが、本来の姿であろう。

06/04/17農業を志す人へJ
もう一度読み返し、一部訂正や加筆したので、ご了承下さい。
私自身も、農家の生まれではないし、就農してからも、諸事情により
離農しようと迷った事もあった。
農業を学問として学んだ事もなかったし、農作業に触れた事もほとんどなかった。
地域の先輩、国の派米研修制度、市や県の関係機関などを通して学んだことで、
ようやくここまで辿り着いた気がする。
だが、学び続けても、分からない事ばかりである。究極のブドウを生産する事は、
夢のまた夢かもしれない。それならそれで、いつまでも夢を追い続けてみたい。
一生の仕事として、農業に出会えた事を素直に感謝したい。

農業は、素晴らしい職業であり、誇れる生き方である。


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