雑感のコーナー・時々コラム

2006年のひとり言

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06/05/13山梨のワインについてK
ワイナリーが専用種のブドウ栽培
(垣根仕立て)を始めたことで、
その難しさに気がついた人たちがいたことで、
逆に、ブドウ農家とワイナリーの新しい取り組みが始まった。
ブドウ栽培が好きで、ワインが好きな私たちと
ワイナリーとが、実際にブドウ栽培を始める。
今までワイナリーが管理していたブドウの栽培を
ブドウ農家が管理し、また、新規に垣根仕立てでの栽培に
我々が、挑戦するという試みである。

私のこれまでの研究成果が、問われる事になるが、
全く心配していない。むしろ、期待に胸が膨らむ。

ワイナリーと農家が集まり、何度かブドウ栽培について、
話し合いをしてきた結果、その方向性を確認し、
信頼関係も築き上げられた。
山梨の風土に合った独自の垣根仕立てと
その栽培技術を確立する事が、
山梨の日本のワインを変える事に繋がるのだ。

その成果が現れるのは、5年後10年後になるだろう。

06/05/12山梨のワインについてJ
それでは、ワイン用ブドウの栽培は、
日本では、不可能なのだろうか。

過去に、試作された品種において、
実用的でないとされた品種の中にも、
現在の状況では、対応できる品種があると思われる。
技術的なコメントは、差し控えるが、
雨の少ないところであれば十分可能であると
いうのが、私の結論である。

生食用ブドウとワイン用ブドウの栽培とでは、
どちらが技術的に難しいかというと
生食用であると断言する。
日本のブドウは、世界最高の品質である。
粒が大きく揃い、色鮮やかで姿形が美しく、糖度も高く、美味しい。
ヴィテス・ヴィニフェラ種を露地栽培する技術があれば、
ワイン用ブドウとしても、品質の高い原料を
生産する事は、可能であると思われる。
しかし、その技術を駆使できる人たちは、
ワイン用ブドウを生産する事はなかったし、
生食用栽培の技術だけでは、対応する事は出来ない。

それは、収益と情熱の問題でもある。
各地にいるブドウ栽培の名人といわれる人たちは、
日本の風土に適応した栽培方法を何も提案せず、
また、ワイナリーとしては、そういう人たちと
語り合うことがなかったというのが、これまでの実情である。

06/05/09山梨のワインについてI
実際にブドウ栽培を経験すると、
思うような成果が出せず、言い訳を始める。
「和食に合うワインは、これだ。」とか
「甲州種で世界に通用するワインを」なんて。

世界的に見ても和食に合うのは、日本酒でしょう。
敢えてワインを飲む必然性を私は感じない。
イタリアンやフレンチにはワインが合うと思う気持ちと
同じくらい日本食とワインは、合わない。
日本食に合うといわれるワインでは、
フレンチには、物足りないと感じるのは、私だけではないだろう。
そもそも、食事にワインを合わせるのではなく、
普通にワインを楽しむ中で、評価していくべきである。

甲州種は、最近、独自の香りを持たせたりし、
注目されているが、小手先だけの技術に頼った
割高なワインが多いと思う。
所詮、普段飲みのワインのレベルでしかない。
それは、それで、いいのではないだろうか。
中には、手頃な価格で美味しいワインもあるが、

ちょっと前まで、「専用種でなければ、垣根でなければ。」
と言っていたワイナリーが、ブドウ栽培で躓いてから
「やはり甲州種でワインを。」という空気になってきたのだ。

06/05/04山梨のワインについてH
2年前カルフォルニアのナパバレーで、
ワイナリーツアーのコンダクターの日本人が、
こう話しかけた。
「日本が将来世界に通用するのワインを作り出すと
私は、思っています。何故なら、日本の果物が
世界一美味しいからです。」

「確かにそうですが、ことワインとなると
栽培地として、不利な条件があるので、
カベルネ・ソービニヨン、メルローやシャルドネなどでの
勝負では、厳しいかもしれない。
しかし、世界的な品種でなければ、
つまり、甲州、マスカット・ベリ−Aなどでは、
世界を驚かせる可能性はあると思っています。
それ以外に、オーストラリアにおけるシラーズの
ような役割の品種も必要でしょうが。」
と私は持論を口にした。

また、私がブドウ栽培をアドバイスしている
某ワイナリーのオーナーの話では、
「カベルネ・ソービニヨン、メルローやシャルドネなどの
ワインでなければ、世界的な産地として認められないのです。
だから、これらの品種で、何とかならないかと
ブドウ栽培を始めたのです。」
彼は、こう続ける。「ブドウ栽培が、こんなに難しいと思わなかった。
ワイン造りとは、レベルが違うし、良いブドウさえ出来れば、
ワイン作りなんて本当に単純で簡単だと思う。」

実際に栽培し、着実に実績を上げている彼の言葉と笑顔は、
ブドウに魅せられた栽培者の顔をしていた。
こうしたワイナリーが増える事で、変革が始まる。

06/05/03山梨のワインについてG
生食用ブドウ栽培は、先人たちの様々な取り組みから、
粗放栽培から発展し、自然形整枝が主流になった。
西日本のH型短梢剪定栽培、山梨のX型長稍剪定も
私の研究では、同じ栽培理論から成り立っている。
たとえば、こうした全く見た目の違う剪定方法であっても、
ブドウの生理に適った栽培方法で、理論も共通する。
こうした栽培方法は、日本独自で発達した。

栽培理論上対極にあるのが、欧米での垣根栽培である。
これもブドウの生理に適った合理的な栽培方法である。
どちらも、その気候風土から、作り出されたものである。

欧米での垣根栽培をそっくり真似しても、
理論の部分が理解できていないと似て非なるものになる。
石灰岩地質で、地中海気候に合う垣根栽培と
日本の気候風土に合った垣根栽培が、同じである筈がない。

新世界ワインの栽培地は、基本的に適地での栽培であるから、
その栽培方法も、理論も欧米と同じである。

昨今のワイナリーのブドウ栽培への進出は、
喜ばしいことではあるが、ブドウ栽培に関して
余りに稚拙であると言わざるを得ない。
先人たちが取り組み、失敗した方法を
ただ、検証しているだけである。
収穫量が少なく、品質の低いブドウの言い訳として、
「収量調節」という言葉で、消費者を誤魔化している。

ブドウ栽培は、そんな甘いものではない。

06/05/02山梨のワインについてF
余り物でワインを造るというと、イメージが悪いが、
山梨のブドウ栽培の基礎技術は、非常に高く、
適地適作に基づいて栽培されている事を付け加えておく。
その辺のところは、どうか誤解しないでほしい。
今でこそ、全国でブドウが栽培されているが、
果樹の中でも、一番難しいのが、
ブドウ栽培であると私は、断言する。

果樹王国山梨で、「桃は桃、葡萄は葡萄」と両者は、
ある意味でライバル関係にある。
しかし、優秀な桃農家の中で、
ブドウ栽培を経験していない人を私は知らないし、
「桃よりブドウが簡単に栽培できる。」と言った人に会ったことがない。

それほど高い技術力を必要とせず、初期投資も低く、
「桃栗三年、柿八年」と言われるように、結果年数も早い
桃栽培が、今の時流に乗って栽培面積が、
拡大しているのも事実である。
金にならない、手間がかかるブドウ栽培は、
徐々に衰退する可能性がある。

さて、国策でスタートしたブドウ栽培であるが、
栽培技術や育種(品種改良)に尽力した人たちの
多くは、民間人であった。
先進的なブドウ農家が、日本のブドウ栽培を発展させるべく、
日夜、血の滲むような努力し、研究してきた成果が、
現在、花開いている事を忘れてはならない。

06/05/01山梨のワインについてE
こうした経緯から、山梨産に限らず、他県産や輸入原料を
抵抗なく普通に使うようになったと思われる。
ワインは、農産物であるはずが、工業製品として扱われている。
表示法も極めていい加減で不親切だと感じる。。
品種名、生産地名、品種割合、国産輸入ワインの割合など
きめ細かく明示されていることが少ない。

また、ワインとは、ブドウ(ヴィテス・ヴィニフェラ種)を
原料とした発酵酒である筈が、
ピーチワイン・キウイワイン・ウメワインなど
訳の分からないワインがゴロゴロしている。

別の種であるヴィテス・ラブラスカ種を原料とした果実発酵酒を
ワインとして流通させているのだから、仕方ない事かもしれない。
私としては、ヴィテス・ヴィニフェラ種の血が入った
いわゆる欧米雑種までは、ワインとして認めたい。

日本の育種は、品質の高いヴィニフェラ種と
雨に強く耐病性に優れるラブラスカ種との交配により
大きな成果を挙げ、日本独自の品種を作り上げてきた。
また、4倍体品種の種無し化などは、育種と栽培技術の
結晶の賜物だと思う。

06/04/29山梨のワインについてD
酒税法制定以前から、ここ山梨では、
地域の余ったブドウを持ち寄り、その地域独自に
葡萄酒を造っていた。
その後、既得権益として認められたのが、
いわゆるブロックワインである。
もちろん今でも、残っているが、権利を売却し、
解散したところも多い。
こうした歴史的背景から、
山梨では、中小のワイナリーが数多くある。

また、発祥がブロックワイン以外の多くのワイナリーは、
酒屋であったり、地主であったり、地域の有力者が
その中心であった。つまり、自分でブドウを作らない人たちである。

ブロックワインは、「もったいない」が原点で、
それ以外は、安価な原料を「ただ発酵させるだけ」だった。
もちろん、国策として、ワインを造ろうとした頃は、
自ら原料を生産し、醸造するというスタイル
を追い求めた人たちもいた。

しかし、その殆んどがブドウ栽培で挫折したのだ。
醸造技術の未熟さが原因で、経営が行き詰ったという
話を聞いた事がない。ブドウから、ワインを造るのは、
最も手軽な手段であるから、当然と言えば当然ではある。
つまり、ブドウを栽培するより農家の余ったブドウを原料にしたほうが、
合理的だと考えるようになっていった。
栽培は、農家に任せ、醸造は、ワイナリーの仕事だという
世界にも稀な分業制度が確立した。

06/04/28山梨のワインについてC
兼用品種は、生食用として流通する場合、
1Kgあたり100円から150円のブドウが、
生食用では、300円から1000円ほどになる。
「今年のブドウは、出来が悪くて、醸造用にしかならなかった。」
と思うのも当然であろう。

それでは、最初から兼用品種を醸造用として
栽培する場合は、どうだろうか。
単価が低く、単位面積あたりの収入が少ないので、
出来るだけ多く収穫しようとする。
生食用の、1,5倍から2倍近くの収量を目指す。

肥料は、とにかく、安いものを使う。
そうしないと採算が合わないからだ。
したがって、糖度も品質も最高とは
言いがたいブドウになってしまう。

専用種も基本的には、同じで、
とにかく手を抜き採算ベースに乗るように栽培する。
以前は、糖度により、単価が上がる方式であったが、
原料の高値安定を嫌う醸造家サイドの方針で、
その制度もなくなり、より一層この傾向が強まっている。

06/04/27山梨のワインについてB
単位面積あたりの収入金額で、生食用とワイン用での、
価格差は、通常5倍ぐらいはある。

したがって、生食用品種のワインとは、ほとんどが、
生食用なにらないブドウから、作られている。

「良いワインは、良いブドウから」ではなく、
「そこそこのワインは、ダメなブドウから」
というのが事実である。
醸造家たちは、処分に困った安い原料で、
いわゆる葡萄酒を造り、そこそこの利益を上げている。

いいワインを造るのではなく、利益の上がるワインを造り続けたのだ。
醸造家は、ブドウ栽培の苦労など知らないし、
ブドウ農家は、ワインのことなど知りもしない。
出来が良い年は、契約栽培を無視して生食へ、
出来が悪ければ無理を言っても加工へ。

ブームの時は、高値で買いあさり、
安値のときは、買い叩く。
つまり、お互いに不信感を持ちながら、お互いに利用し合ってきた。

したがって、出来の良い年の生食用品種のワインは、
量的に少なく、出来の悪い年ほど、多くのワインが生産される。
生食用品種のデラウエア、巨峰、甲斐路などでは、
この傾向が非常に強く、甲州、ベリーAなどの、醸造兼用種でも
その傾向が現れる。

06/04/25山梨のワインについてA
日本全体について、コメントするよりは、
より身近な問題として
山梨県のワインについて述べたいので、
タイトルを変更する。

私が就農してから、26年余り、その間
何度かのワインブームを経験したが、
消費が大幅に伸び、定着したとは言い難い。

ただ、以前に比べ輸入ワインが
簡単に飲めるようになったことと
一部のワイナリーが専用種を栽培し始めたことぐらいが、
主な変化であろう。

私が、ブドウ生産者だとわかると、
「じゃあ、ワインも造っているんですか?」とか
聞かれる事がある。
ブドウ栽培=ワイン関係者では、ないのである。
ブドウ栽培者とワイナリーは、ここ山梨では、
親密な交流がない。
といっても、国産原料の生産者の殆んどは、
ブドウ農家である。

06/04/23日本のワインについて@
山梨と言えば、ワイン、葡萄、桃と連想する人が多いだろう。
日本のブドウ栽培のほとんどが、
世界と全く逆で、殆んどが生食用ブドウ(テーブルグレイプス)である。
明治以降、将来の食生活の欧米化と、キリスト教の布教により、
ワインの消費が拡大するという予測のもとに、
全国でワイン用ブドウの生産が国を挙げて拡大した。
列強に負けずに、国際化するという流れの中にあったと思われる。

しかし、多くの試みは、失敗に終わった。
雨の少ない、痩せた土地でのブドウ栽培は、
適地と思われたここ山梨においても
十分な結果が得られなかった。

残念ながら、消費の中心は、テーブルグレイプスへ向かう事になった。
単価も高く、収益性のあるブドウは、狭い農地を生かすには、最適であった。

06/04/22
昨日は、牧丘へ友人YASUさんのワイン用ブドウのトレリスを作りに行った。
3列だけだが、2種類のトレリスを作った。
ずっと前から、日本の気候にあったトレリスと仕立て方を考えていたので、
実現できて嬉しかった。多少の修正もあるかもしれないが、
出来栄えには、満足している。
途中、二人で近くの知人のブドウの様子も見に行ったのだが、
驚いた事に、YASUさんと私の知人は、なんと昔からの知り合いだった。

「求めれば、出会う。」

もともとYASUさんと出会う前から、私は、彼の父上と知り合いだったし、
葡萄塾の何人かとYASUさんは、知人だった。
YASUさん繋がりでご紹介いただいたワイナリーの常務は、葡萄塾の
メンバーと親戚だったりして、
そんな事が私の周りでは、普通に起こっている。
今回そのようなご縁もあり、そのワイナリーの
栽培技術アドバイザーになり、ブドウ農家とワイナリーが
山梨を代表するワインの生産を目指す事になった。

ワイン好きな人、私たちの取り組みを
見守っていてくださいな。

06/04/17
雑感のコーナーを整理しました。
農業を志す人へは、一部訂正や加筆したので興味のある方は、
もう一度目を通してください。
昨年は、あまり書けなかったと言うのが実感だ。
今日は、午前中、子供たちに手伝ってもらい、柿の剪定枝を片付けてもらった。
ありがとう。
          

 

感想、意見などはこちらへ
hitoshi@ikegawa.com

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